第五章 普請始まる 15 (8月14日の投稿から連載している小説です)

嘉芽市は、懐から鎖距(くさりがね)を取り出し、三者との距離を測った。
基準とすべき種竿はないが、侍どもの身長を五尺(1.5m)とすれば、種竿代わりに利用できる。あとは、暗算した。
すると、真ん中の侍と西の侍との距離は十二間(22m)だが、東側の侍だけが十五間(27m)と、遅れていた。遅れの原因は、茅が伸びて邪魔なのか? ――ともかく、進みを妨げる事情があるはずだ。
一方、侍同士の横の間隔には差はなく、凡そ十間(18m)だった。逆走による突破は、不可能だと結論づけた。
そこで、追っ手の動きが鈍い東側を、突破口と見なした。
嘉芽市は、鎖距を懐にしまい込むと、侍どもの注文通り、山裾に向かって進んだ。
茅の密度が疎らに変化する境目に出たところで、立ち上がる。山裾に沿い、東の方角に一気に駆け出した。
走りきれば、東側の侍の手が届く前に、包囲網を脱せるはずだった。
「逃げ出したぞ! 追えっ!」
慌てふためく侍どもの声を背中で聞きながら、必死に地を蹴った。
走り続けるうちに、追手の声は聞こえなくなっていた。周囲の様子を窺いながら、そろりと道に戻る。
遠くから、嘉芽市を呼ぶ下男の声が聞こえた。やがて、武三郎と下男の姿が見えてきた。
「よくぞ御無事で」
下男は、嘉芽市の手を取らんばかりの喜びようだ。
「お前も怪我はないようじゃな」
「僕(やつがれ)が、普請現場に向かっておりますると、ええ案配に、武三郎様のお姿が」
武三郎が下男に替わって答える。
「嘉芽市殿の様子が気になり、後を追ったのでござるよ。さすれば、貴殿の下男が、不審者に追われて参った次第で」
「追手は、どうしたのでございまするか?」
「拙者が抜くと、逃げ去り申した」


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