第七章 槌を振れ 6 (8月14日の投稿から連載している小説です)

「亀よ」
周介の呼び掛けに、嘉芽市は己を取り戻した。
「なんでございますか?」
周介の呼吸は、幾分か落ち着いていた。
「お前が此度の普請で為そうとしておる本当の目的は、分かっておるぞ」
黙って、周介に頷き返す他はなかった。今となっては、ただの夢となって消えたことだ。
周介が震える手を持ち上げた。嘉芽市は、両手で、周介の手を握る。
「普請の完遂を諦めるな。お前の狙いを、最後まで成し遂げよ」
周介は、意外に強い力で握り返して来た。
「今がまさに、胸突き八丁じゃ。難関を越える手立てを考え出せ。さすれば、お前が進むべき道も、また見えて来ようぞ」
周介は瞼を閉じた。手から、がくっと力が抜ける。
嘉芽市は、周介の容体が急変したのでは? と、慌てた。
だが、周介の顔からは、苦しみが消え、安らかな面持ちとなっていた。息も、心なしか楽になった様子だ。
伝えるべき事項を全て伝え切り、安息して、静かな眠りに入ったようだ。
「進むべき道も、また見えて来ようぞ」
周介の言葉が、いつまでも頭の中に繰り返し響いていた。


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