今年の蝋梅(ろうばい)

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庭の蝋梅が、咲きました。
例年よりも遅れたように思いましたが、実際はそうでもなさそう。

平茂寬は、蝋梅の仄かな甘い香りが大好きです。でも、今年はどういうわけか、あまり匂わないですね。

春の到来を意識させる時期に、いつも思い出すのは、大学生時代に、教材として読まされた『沈黙の春』レイチェル・カーソン著です。農薬の使用による環境汚染を題材に、環境問題を世界の人々に知らしめた本として、よく知られています。

政府は「沈黙」を続け、マスコミの多くも話題に取り上げるのを避けている感じですが、ネット情報を見る限り、福島の原発は再び大変な状況になっているようです。レイチェル・カーソンが思い描いた世界よりも深刻な『沈黙の春』の到来が間近に迫っているのかもしれません。


作家の本棚19 やっぱり読みやすい文がいい『聖女の遺骨求む』

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エリス・ピーターズ(女性です)が、1977年に著した『聖女の遺骨求む』(光文社文庫)は、修道士カドフェルシリーズの最初を飾る作品です。
本シリーズは、小説講座の同門であるKさんから紹介をしてもらいました。それまで平茂寬は、作者のことも修道士カドフェルシリーズも全く知りませんした。
小説には、どうしても好き嫌いがあります。他人が素晴らしい作品だと評価するので読んでみたが面白くなかった、という経験が誰でもあるのでは。
ところが、今回の修道士カドフェルシリーズは(第一巻を読んだだけですが)、とても面白く読めました。
Kさんは、これまで何度か人に本を紹介してきたが、一度としてハズしたことがない、と豪語していましたが、まさにその言葉に間違いはありませんでした。

まず、文が簡潔でとても読みやすい。読み始めたとき、文にすっと馴染めるかどうかは、とても大切な要素だと思います。
作品の冒頭から、しっかりした人物造形がなされていました。しかも人物のキャラが物語の中でうまく生かされるので、ゆったりしたペースで進む話にも拘わらず、退屈しません。
先の筋書きがいくらか読めてしまう部分もあります。しかし、罪を犯した人物以外は、敵対していた登場人物も含め、誰もそこそこ満足な気持ちとなって話が終わるところには驚かされました。こんな終わり方ができるんですねえ。

修道士カドフェルのシリーズを2巻以降も読みたくなりました。


作家の本棚18 さすがは松本清張賞『白樫の樹の下で』

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青山文平著『白樫の樹の下で』(文藝春秋)は、師匠の若桜木虔先生から長い間、お借りしている本で、最近読み終えました。

さすがは第18回松本清張賞の受賞作品だと思いました。
淡々とした文体ですが、落ち着いていて、とても読みやすい。地の文と会話の割合も馴染みがよかったし。
改行ばかりの時代小説でもなければ、文字びっしりの海外小説のどちらでもない、文字と空白の割合も美しく・・・あれあれ、物語の内容以外の話ばかりになってしまいました。

もちろん、物語としてもかなり面白かったです。けっこうな登場人物が、思わぬところで、あっさり死ぬんですよね。これが、なかなか利いていて、えっと声を出しそうになったほどです。三度ほどやられましたか。
惜しいのは、いよいよの犯人が明らかになるところでした。えっ、その人だったの? うーん、もう少し何とかならなかったのかなあ(あくまで私見です)。
あとは、しっかり者で心の強いはずの朋輩の心が崩れていく過程が見えにくかったことでしょうか。
重箱の隅を突くような記述をしてしまいましたが、小説は決してオチとかクライマックスだけが値打ちではなく、全体を読んで楽しむものだと思います。となれば、この作品は、ページ数で行けば九割は存分に素晴らしい手応えを感じながら読めるので、私は大いに満足できました。


新刊本(3月7日発刊予定)『悪采師』の主人公・六趣斎音吉とは

大審院判事の尾佐竹猛が1925年に著した『賭博と掏摸の研究』という本があります。
この本は「賭博の方法やイカサマを古今に渉って現在行われている手段までも公開した、跡にも先にも類のない天下一本の奇書」(Googlebooksのレビュー)です。20130730_855ae9

六趣斎音吉(ろくしゅさい・おときち)は、『賭博と掏摸の研究』の中で以下の通り紹介されています。
「六趣斎音吉といふ賽作りの名人がゐてこの人の作った賽転はどこに種も仕掛もなく、而も丁半自由に好める片面を出すことが出来たというから賽作りの腕前としては非常に優れたものと思はれる」

江戸中の博徒の大親分が、専属で働かないかと、大枚を積んで音吉を誘いました。専属で働くとは、すなわち飼い殺し――いかさま賽子づくりの技術を独占する契約です。
ある親分は一月百両でどうか、と、持ち掛けたとか。現在の金額に換算すると、1,280万円(「江戸の卵は1個400円」光文社新書より)ですから、今で言えば一流のプロ野球選手並みですね。
ところが音吉は、全て断りました。職人としての清々しい気質が窺われる逸話です。

初めて、この部分を読んだときに、いかさま賽子作りに全てを捧げて没頭する音吉の姿が見えた気がしました。
とても惹かれました。音吉を主人公にした小説を是非とも書きたいと思ったのです。


新刊本『悪采師(あくさいし)』が3月7日予定で朝日新聞出版から出ます。

悪采師

朝日新聞出版から、『悪采師』を3月7日予定で刊行致します。
文政期の江戸が舞台。実在した、いかさま賽子造りの名人六趣斎音吉(ろくしゅさいおときち)を主人公とした任侠エンタテインメント小説です。

デビュー作の『隈取絵師』(朝日新聞出版)や2作目『暴れ茶人無頼剣』(学研M文庫)とは、また違った世界を楽しんでいただければ幸いです。

アマゾンで、すでに予約が始まっていました。


作家の本棚17 『獣医療とコミュニケーション』小説ではありませんが

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この本は、日本獣医師会が、獣医の先生方の研修会で配布するテキストとして作成したものです。
獣医の先生方に、よりよいコミュニケーションのあり方を学んでいただき、獣医療現場に活かしていただきたい、との趣旨で編集されました。

平茂寛は、200頁余りの本テキストのうちの4頁を執筆いたしました。
題は「酪農家における家族経営ミーティングの取り組み」です。
そもそもの経緯は、大坂にお住まいの獣医の先生からお誘いをいただき、畜産農家と指導者間とのコミュニケーションをテーマとした全国研究組織「農場どないすんねん研究会」(略称NDK)の活動に参加したことでした。平茂寛は、農業経営者の技術や経営を指導する農業普及指導員という職務をしているのです。
活動の中で、全国の獣医の先生方や畜産関係者と学び合い、数え切れないほどの発見をし、仕事の場でも活用してきました。

『獣医療とコミュニケーション』への参画は、とても誇り高い機会でした。
というわけで、発行もとの「獣医療提供体制整備推進協議会」さんには断りなしに、平茂寛の誇るべき共著の一つに加えさせていただきます(^_^)。


大浮世絵展に行ってきました

先週の週末に江戸東京博物館で開催中の大浮世絵展に行ってきました。著作権の関係で絵は表示できません(と思う)ので、代わりにもなりませんが、音声ガイドのコピーを掲載しました。img008
●いやもう驚きました。展示されている浮世絵の色の鮮明なこと。とても二百年三百年を経過した作品とは思えません。複数残っている摺り物の中から、特に色鮮やかなものを選りすぐったとか・・・。肉筆画も負けず劣らずの美しさでした。
●事前に入手した図録の絵は素晴らしかったのですが、やはり実物の素晴らしさには敵いません。ただただ、唖然として見入るばかりでした。
●展示内容は8回に分けて変更されるとのことでしたが、お目当ての一つ北尾政美(鍬形恵斎)の『江戸両国橋夕涼之景』の実物を見ることができて、最高に幸せでした。しかも、この絵は音声ガイドのリストに入っているのですから、感激はひとしお。
●葛飾北斎、喜多川歌麿、東洲斎写楽は言うまでもありませんが、平茂寛は鳥居清長の絵に気持を惹かれました。お目当てだった『尾張町恵美寿屋店頭図』も期待通りの切れ味。じゅうぶん満足できました。
●それにしても、会場の混みようが凄くて・・・。なかなか見られない充実した内容なので当然と言えば当然なんだけど。平日が狙い目かと思います。


作家の本棚16 遠野有人著『密室の筺』青松書院

P1010965和服のよく似合う素敵な女性が、『密室の筺(はこ)』の著者である遠野有人(とおの ありと)さんです。
遠野さんは、女性ながら一級建築士として建築分野のお仕事でご活躍をされておられます。なおかつ、ミステリ小説を執筆されており、建築に関する知識とご経験を活かしての作品が中心です。
さらに、平茂寛と同じく、若桜木虔門下です。
この写真は2月1日に東京で開催された若桜木門下の新年会で撮影しました。

 

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いつもならば、読破後の感想等を連ねるのですが、今回はこれから読むので、本の紹介のみになります。読破したら、再度、感想などを掲載したいと思います。

頁を繰ると、東京スカイツリーを舞台に、「エレベータ」、「密室殺人」、「グランドオープン」といった言葉が目に飛び込んできました。はてさて、どんなストーリーが展開するのでしょうか。大いに楽しみです。
平茂寛も、いつかは現代物のミステリーを執筆してみたい、という願望があるので、その意味でも興味は尽きません。
表紙の写真も素敵!


作家の本棚15「自白」ジョン・グリシャム著 新潮文庫

img003洋書にしては、冒頭からすっきりとして読みやすい印象がありました。
最重要人物ボイエットが、主人公の牧師キース・シュローダーを尋ねてくるところから物語は始まります。初老に見え、杖を突き、いかにも癖のあるボイエットに最初に応対したのがキースの妻デイナ。作者は、上下巻にわたる長い作品の最初に、終局近くで読者の心胆を寒からしめる伏線を張るのです。

物語は、冤罪囚の死刑執行を巡って、どうしても執行したい警察、検察、行政側と、阻止したい弁護士側との遣り取りの中で進んでいきます。被害者の死体すら見付からぬまま殺人の罪を着せられた黒人青年の死刑執行まであと数日しかありません。
登場人物の言動や態度に腹を立て、ときに希望を感じ、さらには苛つくなど、場面場面でこれでもかと感情を揺さぶられました。まさにページを捲るのがもどかしい内容で、最近はほとんどが就寝タイムとなっていた列車での通勤時に目が冴えて冴えて・・・・。

いよいよ終わり頃になって、「これか」と思わせる展開になりかけます。著者の秘めた意図を知ると、してやられた気までしました。ネタはばらせませんが、凄いの一言しか言いようがありません。

しかし……しかしです。なぜか著者は、驚愕の流れの直前まで導きながら、それを活かさぬまま、話を終焉まで運んでしまうのです。平茂寛には理解しがたい展開でした。もっとどきどきできるはずでした。もっと読者と主人公側を奈落の底に突き落として苦しめる絶好の展開が設定できそうでした。なのに、なぜ?
ともあれ、終局前までの展開には、じゅうぶん過ぎるほど楽しめました。最後のがっくりを補って余りあるほど。やはり世界の巨匠は違いますね。

なお、本文とは直接関係がありませんが、著者あとがきに非常に興味深い一言が添えられていました。
「わたしが執筆のための調査活動をきらいつづけ、またおりおりに事実を飾ることで心の底から満足している姿勢が変わらないかぎり、今後も事実誤認が消えることはないだろう」
つまり、グリシャムは現地取材をしない主義なのです(今回は刑務所を訪問したようですが)。にも拘わらず、こんな臨場感溢れる作品を著せるなんて。しかも事実誤認を宣言するとは、なんという正直さ? 傲岸さ? 作家スタイルとして、大いに興味を惹かれます。