作家の本棚9「登場人物の着物にはいつも悩む」

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平茂寬は歴史の知識が乏しい人間です。特に服装についてはさっぱり……。
しかし、時代小説を執筆しようとすれば、「装束が分からない」では通用しません。登場人物が全員裸で登場するなら、いいんですけどね。

ただ、衣装の描写は、舞台となる時代のみならず、登場人物の身分や仕事、着る場所によっても異なるのですから、なかなか大変です。さらに文様の種類や衣服そのものの呼び名、衣服の部位の名称、あるいは、どんな着方が当時、洒落ていたのか……など、恐ろしいほど多くの要素があります。どれも、これまで縁遠かった事項ばかりなので、いつも悩み苦しむところです。

上記の悩みの答えが一冊の中にコンパクトに、しかも図解入りでまとめてある本書『図解 日本の装束』池上良太著 (新紀元社)は、手放せない一冊です。この本で全てがパーフェクトに理解できるわけではありませんが、平茂寬のように、書きたがりで「走りながら服を着る」タイプの人間には、迅速に知識が得られる本書は貴重です。
一度この本を紛失したことがありましたが、目の前が暗くなる気さえしたものです。
黒と緑の二色刷りなので、和服の鮮やかな色彩や生地の風合いまでは直感できませんが、それは別の書籍で確認すればいいのです。


作家の本棚8「素晴らしい茶の湯の入門書に出会えた」

img027平茂寬が『暴れ茶人無頼剣』を執筆するにあたり、主人公の小堀梅之助が身を置く、遠州流茶道の勉強をする必要がありました。そこで岡山県高梁市の頼久寺で行われている同流の稽古に通うようになったのですが、初日に教授の宮原先生から頂いたのがこの本。

現お家元の小堀宗実が執筆した『茶の湯の宇宙』(朝日出版)は、平易かつ簡潔な文章で、茶の湯にまつわる知識や考え方を、実に分かりやすく伝えています。お家元は文章力においても卓越したものをお持ちのようです。
読み終えたときに、茶の湯の全てが腑に落ちたような心地よい錯覚に酔いました。また、遠州流茶道への親しみも心に残りました。

 

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小説執筆の際には三度読みました。原稿用紙200枚あまりのボリュームの新書には、今も付箋がびっしりと付けてあります。それだけ参考になるところが多かったです。

紹介してるうちに、またまた読みたくなりました。読めば、新しい発見がまたあるでしょう。
名古屋の茶会で、お家元の姿を拝見しましたが、写真そのまま(当たり前!)。ざっくばらんで気さくな方でした。


作家の本棚7「東大法学部教授のガイドで江戸時代を漫遊」

img026『第三江戸時代漫筆』は、昭和38年に、東京大学法学部教授の石井良助先生が書かれたものです。『江戸時代漫筆』『続江戸時代漫筆』に続く、シリーズものの歴史本でした。

盗みに始まり、ばくち、火付け(放火)、親殺し・・・と、江戸の陰の部分ばかりの内容ですが、興味深いエピソードと楽しい挿絵を交えた文章は、真面目ながらも遊び心が感じられて、東大教授の肩書きが嘘のように思えます。

 

 

平茂寬は、特に「ばくち」の項に感じ入りました。丁半のみならず、三笠附、宝引(ほうびき)など江戸時代は賭博がさかんに行われました。果ては柿の種の数当てまで賭の対象に! なんでもかんでも賭け事にしてしまう江戸時代の人々・・・いかに博奕好きだったかが、よく分かります。
こんなエピソードも紹介されていました。とある地域では、罰則を強化しても、なかなか民が博奕を止めないので困っていました。そこで郡奉行が、「博奕に負けた者が申し出れば、金を取り返してやる」と決めました。すると博奕で勝っても得にならないので、博奕の流行がすたれた、とか。
思わずにやりとしてしまいますね。石井先生の江戸漫遊ガイドはとても素敵です。


作家の本棚6「世界の巨匠にリベンジを誓う」

『ゴールデンボーイ』スティーヴン・キング著
51gDieep4DL._AA160_ いい小説を書くためには、海外の小説もよく読み込んでおくべき、と薦められ、最近はできるだけ読むよう心がけています。とは言え、海外の小説は苦手です。登場人物が多いため、読む前から怖じけてしまうので。
勇気をふるって読んでみるのですが、集中して読める作品にはなかなか出会えませんでした。でも、この作品は違いました。着想の奇抜さと設定の妙味にため息が出ました。作者は、映画化された「グリーンマイル」や「スタンドバイミー」を書いた世界的な巨匠。当たり前と言えばそうかも(本作も1998年に映画化されています)。
旧ナチスドイツの強制収容所でユダヤ人を虐殺した人物が、素性を隠してひっそりと老いて生きている。優秀な少年が、ある資料を目にしたことを契機に、この老人の過去を見抜き、己の命を守る保険をかけて接近し、ホロコーストの実情を聞き出そうとする――まあ、ざっとこんな感じでしょうか。
殺人鬼を前にする子供の緊張、口封じに子供を殺したいのだが殺せない老人。そのうちに、老人の心に、親心にも似た感情が芽生える。いや、もう最高でしょう。
ですが、後半から結末がどうしても納得できませんでした。なんで、そっちの方向に行っちゃうのお???
すると、世界の巨匠を相手にとんでもない野心が頭を擡げてきたのです。ついには言葉になって口から噴き出しました。
「このままじゃ済まさないぞ。この話を納得できる物語に再構築してやる」
こっそりとリベンジを誓いました。


作家の本棚5「魅力的なキャラクターは奇をてらわない歴史書に住んでいる」

興味のあるキャラクターを見付けたとき、あるいは思いついたときに小説の執筆意欲は高まります。時代小説の場合には、新たなキャラクターをゼロから創造するよりも、過去の歴史の中から発掘した実在の人物を取り上げ、物語を膨らませていく場合のほうが多いと思います。
では、どのような書物の中から、魅力ある人材(?)が見付かるのでしょうか? 平茂寬に限れば、「江戸には、こんな人物がいた・・・」や「歴史おもしろ人物集・・・」とか銘打った、言わば奇をてらった本を読んでも、関心を惹く人物にはなかなか出会えません。
これだと思うキャラに出会うのは、とつとつと記述された、むしろ教科書的な本の場合が圧倒的に多いです。

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例えば『津山市史 第三巻 近世Ⅰ ―森藩時代ー』(津山市史編纂委員会)は、私の住む津山の郷土史をまとめたものですが、森長武(第三代藩主、魑魅魍魎の匂いが漂う)、関衆利(御目見に江戸に向かう途中で発狂して五代藩主になり損ねた)、高木右馬助(超怪力男)など、これでもかと魅力的な人物が出てきます。
津山に関連のある小説を執筆するに際しては、こうした郷土史本は必須の歴史資料となりますが、キャラクターの発掘源でもあるのです。


今週の競馬予想2「フェアリーS」

昨日、片目が開いたので、勢いを駆って、もう一日勝負をしてみます。
中山のメインレース「フェアリーS」は1600メートル戦。この条件では、目を瞑って内枠狙いに徹します。傑出した実力の馬が見当たらないので、枠順の有利不利が結果に大きく影響すると読みました。
軸は④エクセレントビュー。愛読誌デイリースポーツの木村拓人記者によれば、今の中山コースはかなり力が必要らしく、特定の種馬の子が台頭してるとのこと。そのうちの1頭に「チチカステナンゴ」という変な名前の種馬が入っており、エクセレントビューはその産駒です。

相手は①②③⑤⑥。


作家の本棚4「心を打つ歴史書」その2

img024(つづき)本誌を読んで感じるのは、著者の民衆に向けた暖かな眼差しと、専横政治を行って欲望のまま振る舞った明治政府の中心的人物たちへの怒りです。
専横に異を唱えた民衆のリーダーが新政府の宰相たちに挑みますが、次々と弾圧を受け、身の毛もよだつ拷問を受けて死んだ人もいました。
新政府を牛耳っていた人々は、政策を貫徹しようとする意欲は旺盛ですが、反面、民衆の声や、苦しみ、死に対しては、恐ろしく無関心でした。
明治に入ってから東京の住宅事情がひどく悪化した点、コレラが発生すれば膨大な犠牲者が出ると知りつつ、衛生改善の予算を大幅に削って数万人を死に至らしめた点など、例はいくつかあります。
民衆の声や、苦しみ、死に無関心に政治を進めるという思考は、後継者に血筋としてしっかり受け継がれているなあと、昨今の政治を見ると強く感じます。
コレラ患者は野晒し同然の場所に集められ隔離されました。苦悶の呻きで耳を塞ぎたくなる場から、ほんの数キロも離れていない鹿鳴館で、明治政府の権力者たちは舞踏を楽しんだのです。
具体的な内容について紹介すればきりがありませんが、読めば読むほど、怒りがこみ上げてきます。この歴史書は、私の感情を激しく揺り動かしました。


今週の競馬予想「シンザン記念」

先週は東西重賞とも外国人騎手が勝ちました。世界のトップが来日しているのだから仕方がないのかもしれませんが、もう少し日本人騎手は頑張って欲しいですね。

さて、今週はシンザン記念。⑫ミッキーアイルが逃げると思うので軸とします。相手は①④⑦⑨⑩。

三歳クラシック戦線で強かった逃げ馬と言えば、ミホノブルボンやカブラヤオーでしょうか。2頭とも、今の時期から強さを発揮していたので、ミッキーアイルへの期待は大きいです。前走で勝っている「ひいらぎ賞」は、カブラヤオーも制しているはず。


作家の本棚3「心を打つ歴史書」

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『中公バックス日本の歴史 21近代国家の出発』(初版昭和46年)をぜひとも紹介したいと思います。『中公バックス日本の歴史』は、中央公論社が、全26巻で日本の歴史を解説したものです。岡山歴史研究会の会員の方が住居を移転されるに際し、平茂寬は幸運にも本シリーズの全てを譲って頂きました。
なかでも本編は、色川大吉氏の執筆によるもので、シリーズものの歴史書の一巻であるにも拘わらず毎日出版文化賞特別賞を受賞しています。

読み始めて、冒頭から圧倒されました。

「シベリアの曠野を二台の馬車がよこぎっていた・・・(略)・・・ペテルブルグを出発した榎本武揚は・・・(略)・・・カザンからペルムまでの一千露里を馬車で飛ばし、ウラルの山脈を越え・・・(略)・・シベリア官道数万キロを突っ走った。 ザ・バイカルを行くときは、八月末だというのにすでに秋色深く、満目蕭条、陽が落ちると気温は零度に下がった」

――まるで小説を思わせる書き出し。寒々としたシベリアの大地をひた走る馬車の姿が目に映るかのような描写です。そして、格調高い語り口。
榎本武揚はご存じの通り、土方歳三ととともに、旧幕府最後の勢力として、五稜郭にて新政府軍と戦った人物です。
この本については中身についても語りたい。二回に分けて紹介します。


作家の本棚2「痒いところに手が届く時代考証本」

時代小説を執筆する場合には、正確な時代考証が求められます。平茂寬は主に江戸時代を舞台にした小説を執筆していますが、そもそも、当時の風俗をある程度理解しなければ、筆が先に進みません。
時代考証に関する本は巷に溢れています。平茂寬は、小説執筆の師匠である若桜木虔先生や先輩諸氏の情報をもとに、最低限必要な資料は取り揃えました。しかし、本当に知りたい事項は書かれていない場合が多いのです。

『歴史人2011年11月号 江戸の暮らし大全』(KKベストセラーズ)は、若桜木先生から薦められて購入したムック本ですが、知りたいことが要領よく図入りで分かりやすく書かれており、小説執筆をする際に、とても役立っています。俗な物言いですが「痒いところに手が届く」感覚です。他の資料をあちこち当たって調べてみたが、あとで『歴史人』を開いてみたら、書いてあった、という経験もよくしています。img023