超短編小説「なないろがし」三回のうちの第一回目

村の北端に、樫の大木が一本立っていた。
この樫は、春先から晩夏にかけて葉の色が七色に変化した。しかも、年によって色の変化の順番が異なり、濃淡にも違いがあった。だから、村人は、この樫の木を「なないろがし」と呼んでいた。
毎年、春を迎えると、「なないろがし」は、例外なく村人の話題にのぼった。
野良仕事の行き帰りに「なないろがし」を見ては、あれこれと話を交わす。日毎に微妙な変化を遂げて行く大木は、単調な生活に新鮮な刺激を提供した。
とある老夫婦は、毎朝、「なないろがし」に、ナンマンダナンマンダブとお経を唱える。なるほど、巨木の示す摩訶不思議な現象は奇跡に違いない。樫を信仰の対象とする老夫婦を笑う者など、一人もいなかった。
色の変化の順番が異なれば、当然、晩夏に現れる最終色が、毎年違うことになる。
燃えるような赤色に染まる年があった。ある年は黄色に染まった。緑のままだった時もあった。

写真は「宮本卓オフィシャルウエブサイト」より掲載。http://blog.golfdigest.co.jp/user/miyamoto/ 

 


第五章 普請始まる 11 (8月14日の投稿から連載している小説です)

鳴きじゃくっていた蝉どもが、暑さに閉口したのか、小休している。
「まずは、相手の出方を考えにゃあならん」
嘉芽市は、火照った頬を掌で冷やしつつ、これまでの〝強硬派〟の手口の分析を試みた。
「着目すべき点は二つ。一つ目は隧道普請の要所を衝いてくる点じゃ。二つ目は、最初は杭、次に鑿泥棒、さらには火付け――と、遣り方がだんだんと熾烈となってきておる点。さすれば……」
背骨の芯を冷感が突き抜け、噴き出していた汗が、一気に退いていく。
「次なる標的は、人夫じゃ――違いない! それも、石工か小鍛冶じゃ」
ごくりと唾を飲み込む。ひりつく喉を、粘っこい塊が下りて行った。
「如何に警備を強化すると申しても、御役人の数にも限りがある。動き回る人夫ども全員を守る芸当はできぬ。まさに敵の狙い所ではないか!」
石工や小鍛冶が消えたり、作業のできない身体となれば、重大な支障が生ずる。
が、事態は普請の遅延だけでは収まらない。「神隠し」だの、「祟られての怪我」だのと噂が流れれば、怖れた人夫どもは、我先にと普請現場から逃げ出すだろう。
「如何にすれば、石工や小鍛冶の身を守り通せるのじゃ?」
嘉芽市は、腰を下ろし、手近にあった木切れを拾った。
「何かないか? 何か手を思い付かぬか?」
ぶつぶつと呟きながら、手の動くまま、地面に線を引き、図や数字を描く。
たまたま、二つの円の一部を重ねた図形を描いた時だった。ふっと手の動きを止めた。
「そうじゃ。交罅(こうか)じゃ!」
木切れを持った手を、己の腰に打ち付けて叫ぶ。
「石工と小鍛冶は、いつも決まった二人一組で動くよう、取り決めをするのじゃ。石工どもだけではない。役夫も同じくするのじゃ」
複数で行動すれば、〝強硬派〟が狙い難くくなる。加えて、人夫の中に裏切り者が紛れ込んでいても、二人一組とすれば、人夫同士がいつも互いに監視し合う結果、犯行が予防できる。
交罅とは、和算用語で、二つの図形が交わってできる部分を指す。
嘉芽市は、思い付いた方策を「交罅の計」と名付けた。


明治の開幕。日本三代の映像1。大宅壮一著。

地元の図書館で「明治の開幕 日本三代の映像1」という本を借りました。大宅壮一さんの著作です。明治時代の写真集のようなものですが、これが面白くて!

 

これは日本髪から解放された明治時代の女性のヘア・スタイルの写真です。明治二十年から、芸妓仲間に、こうした洗い髪が大流行しました。この女性、かなり色っぽいですね。
これはほんの序の口。興味深い写真が他にもいろいろありました。

さっそく、古本を探して注文!

 

 

 

今回借りた本は、図書館が購入したものではなく、寄贈された書籍のようでした。昭和42年の新聞の切り抜きが挟んであったからです。まさに、この本が出版された年でした。最初に購入された方が、知的好奇心を強く持って、本の入手をされたと想像します。

 


第五章 普請始まる 10 (8月14日の投稿から連載している小説です)

「では、どうすれば……?」
嘉芽市は、万策尽きた気持ちとなり、がくっと首を項垂れた。
ところが武三郎は、あっさりと別の解決策を提示した。
「人夫の手当を、上げることでござる」
「たった、それだけで?」
嘉芽市は、瞠目して顔を上げる。
「此度の普請の日当は、石工百二十文に、役夫百文でござる。日頃から貧に窮している堀坂の者どもにとっては、まさに降って湧いた宝の山。そう簡単には手放すはずはござらぬ」
武三郎は、具体的な方法についても述べ始めた。
「まずは、祟りの話なんぞ何処吹く風と振る舞うが肝心。なおかつ、普請が捗った褒美を理由に、日当を上げるのでござる。あとは時が為す仕事に任せる。つまり、人夫どもの頭から小波(さざなみ)が消える時を待てばよいのでござる。人心とは、誠に以て移ろぎ易きもの」
「忝のうございます」
嘉芽市は、赤黒く日焼けした武三郎の大きな顔に、思わず拝礼した。
だが、武三郎の唱えた方策で難を乗り切るためには、今後の異変を断固として阻止せねばならない――という、厳しい条件がある。
「もちろん、さらなる監視の強化も、御代官様にお願い致さねばならぬが……」
武三郎も、そこは懸念しているようだ。
嘉芽市は、危惧の念を抱かずにはいられない。
これまで〝強硬派〟は、力に頼らず、むしろ知謀を用い、予想の付かぬ策を弄してきた。今後も傾向は変わらないだろう。
と、すれば、藩士による警備をより堅固にする程度の常套手段で、異変を防ぎきれるかは、極めて疑問だった。
嘉芽市は、〝強硬派〟への独自の対抗策を組み立てるべく、考えを巡らせた。


ゴールドシップは強かった。自信の3コーナー捲り。菊花賞。

菊花賞のゴールドシップは強かった。3コーナーからの捲りには、かつてのタマモクロスのレースぶりを重ね合わせました。自信がなくては、できない乗り方だと思います。

テレビで観戦した限りですが、今年の菊花賞のお客さん、よく盛り上がってましたね。また、現場に足を運びたくなりました。

これで秋のGⅠは3連敗。春からは……数えたくないですう。
ただ、準メインだけは、そこそこ当たるので、新たな投資なく次の週に繋がっています。
まだまだGⅠシリーズは長い。戯言(たわごと)をからめながら、存分に楽しんで行きます。

今後とも、おつきあいをよろしくお願いします。


ダノンジェラート買い。GⅠ路線そろそろ荒れごろ。菊花賞。

馬券の検討をするときに、これと言ってお目当ての馬がいない場合には、馬柱を眺め、目立つ馬を選ぶ。目立ち方は、どんな条件でも構わない。
今回の菊花賞では、⑬ダノンジェラートが最も目立った。なにしろ馬柱に空白がある。出走回数が少ないのだから当然だが、この目立ち方はハンパでない。

「ジェラート」の文字が、新聞紙面から大きく浮き上がって見えたのも、選んだ理由の一つだ。仕事柄、酪農家(乳牛を飼っている農家)の方々の動向をいつも気にしている。近年は、単に搾乳するだけでなく、ジェラートやソフトクリームへの加工販売に挑戦する農家が何戸か現れている。それが潜在意識に働きかけたためだとは思うが。


岡山県瀬戸内市牛窓町にある「牛窓ジェラードコピオ」

かくして、正当な馬券検討とはかけ離れているが、⑬を軸馬に決めた。底を見せていないし、末脚は①ゴールドシップに次ぐだろう。キャリア不足以外は、結構面白い馬なのだ。

がちがちの本命対抗で決着が続くGⅠ路線も、そろそろ荒れて欲しいし……。

⑬ダノンジェラートから流すのは、
①ゴールドシップ。個人的には魅力を感じないが、外すのも冒険が過ぎる。
②フェデラルホールと⑰タガノビッグバン。上がり馬なので。
⑮スカイディグニティ。有力馬にして外人騎手乗り変わり。
⑮ユウキソルジャー。地味なのがいい。
以上の5頭で。

 


第五章 普請始まる 9 (8月14日の投稿から連載している小説です)

翌朝になると、普請現場の雰囲気が激変した。
隧道入りを、うじうじと渋る石工が、一人、また一人と、出始めたのである。
昨日までは、掘削の捗りを楽しみに喜々と入って行った。全く以て想像できない変貌ぶりだった。
実働できる石工の数が減れば、半刻ごとの三交代体制が維持できなくなる。
結果として、一部の石工に労働が集中した。疲労と不満から、石工の腕の振りは、当然の如く鈍る。
役夫も同様だ。怯えた顔付きで飯場の近くに固まり、警備の藩士に促されて、ようやく動く始末である。
原因は明らかだった。人夫どもが、これまで胸に秘めてきた不安や怖れが、弥十郎の言葉をきっかけに、一気に表面へと噴き出したのだ。
せっかく、順調に進み掛けた普請が再び滞った。日を重ねる毎に、遅れは増幅し、大きな重荷となって嘉芽市にのし掛かる。
それにしても、何故、弥十郎は、嘉芽市の邪魔をするのか?
「だいぶ、参っておるようでござるな」
武三郎が、額に玉の汗を浮かべながら、声を掛けて来た。
「人夫どもの不安を鎮めるため、一度、水神様の慰霊をしたらどうかと、思うのですが」
嘉芽市は、唯一の考え得る策を口にしてみた。
「逆効果でござるぞ。慰霊祭を行えば、祟りを事実だと認める結果になり申す」


第五章 普請始まる 8 (8月14日の投稿から連載している小説です)

武三郎は、清助に帰還した旨を伝えるため、立ち去った。
その日の夕刻。仕事に一段落付けた嘉芽市が、屋敷に戻ろうとした矢先、何者かに呼び止められた。
人夫に命じ、提灯を向けさせると、ぼてっとした小男の姿が、闇の中に浮かび上がった。
「弥十郎……!」
心が、ざわっと荒立った。顔を見るのは、洪水の直後に罵倒されて以来だ。
弥十郎は、この日も喧嘩腰で絡んで来た。
「わりゃあ、また、性懲りもなく、水神様を怒らせるんか?」
「どういう意味じゃ? ことと次第によっては、許さぬぞ」
弥十郎は、嘉芽市の言葉には取り合わず、周りにいた人夫に向けて、声を高めた。
「皆の衆よ。よう聞け。この嘉芽市はのう、水神様に、とことん嫌われとるんじゃあ。この者(もん)の遣ること為すこと全てが、水神様のお怒りを買うんじゃ」
「黙れ、弥十郎! 何を根拠に出鱈目(でたらめ)を申すか!」
憤慨の声を聞いた弥十郎は、小馬鹿にした笑いを漏らした。
「まさか忘れたわけではあるまいな。去年の春の大水を」
苦い悔恨を交えた忌まわしい記憶が、嘉芽市の中で、生々しく蘇る。
「あれほどの水が来た例は、これまで一度としてなかった。理由は、はっきりしておる。こやつが堰を拵えたからじゃ。皆がどれほど酷い目に遭うたか。あれこそが動かぬ証拠」
人夫どもの間に、只ならぬ動揺が走り抜けるのを感じた。今すぐにでも、弥十郎の口に拳を突っ込み、塞いでしまいたい。
弥十郎は、ますます調子に乗った声を発する。
「この普請が始まってから妖し火が舞い、二度までも飯場が燃えた――と、聞いたぞ。鑿も丸ごと消えてなくなったらしいのう。何もかも水神様が御趣意の顕れじゃ」
「妖し火の話なんぞ、聞いたこともないぞ。根も葉もない作り話をするでない! それに、水神様が鑿泥棒とは笑止千万! 水神様を穢しておるのは貴様であろうが」
嘉芽市は、弥三郎の付け火を、懸命に消して回る。
だが、人夫どもの間からは「妖し火」や「水神様」の言葉が、彼方此方から漏れ聞こえてきた。
「皆の者よ。嘉芽市に従えば、水神様の罰が当たると思えっ」
弥十郎は、そう言い捨てると、引き摺るような足音を立て離れていった。遠離る足音が運気の逃げる予兆の響きに聞こえる。
同時に、疑問を感じた。以前の弥十郎は、サキを執拗に追い回すなど、粘着質の性格だったが、表立って衆人を相手に演説をぶるような男ではなかった。


JR津山線の通勤は、いつも何が起きるのか楽しみ。

通勤に使っているJR津山線で、このところ立て続けに出来事があり、ずいぶんと楽しませてもらいました。

1  2日前の帰り――列車が急停車。すわっ。一大事か?
「ここ、どこなの?」
暗闇の中に停車したまま。いかにも不安そうな女性の声が……。
しばらくして、「〇〇駅にお降りの方は申し出てください」という、不可解極まる車掌のアナウンスが聞こえた。しどろもどろの語りは、いかにも狼狽えた様子。
「次の駅から、〇〇駅に行くタクシーを準備したので、乗ってください」とのアナウンスが続き、謎が解けた。
運転手が、本来停車する駅を忘れて通り越していた。次の駅の手前で気が付き、急ブレーキを踏んだのだった。
だが、文句を言う客は一人もいない。さすが皆さん良く慣れていらっしゃる。

2  昨日の行き――思わぬ場所で列車が止まった。
踏切の緊急停止ボタンが押されたとの放送。結局、誰が何の理由で押したかは説明なし。いたずらだったのかも。
朝の通勤は11分の遅れとなった。でも、この程度のことは津山線なら驚くに値しない。車内は静かなもの。

3  昨日の帰り――またまた列車が急停車! こんどこそ事故か?
がくん、との衝撃に、さすがの乗客も顔色を変えた。
だが、直後に、「ただいま、線路上に鹿がおりましたので」のアナウンス。
「くすっ、鹿だってえ~津山線らしい」
心の底から頷きました。