超短編小説「なないろがし」三回のうちの第一回目

村の北端に、樫の大木が一本立っていた。
この樫は、春先から晩夏にかけて葉の色が七色に変化した。しかも、年によって色の変化の順番が異なり、濃淡にも違いがあった。だから、村人は、この樫の木を「なないろがし」と呼んでいた。
毎年、春を迎えると、「なないろがし」は、例外なく村人の話題にのぼった。
野良仕事の行き帰りに「なないろがし」を見ては、あれこれと話を交わす。日毎に微妙な変化を遂げて行く大木は、単調な生活に新鮮な刺激を提供した。
とある老夫婦は、毎朝、「なないろがし」に、ナンマンダナンマンダブとお経を唱える。なるほど、巨木の示す摩訶不思議な現象は奇跡に違いない。樫を信仰の対象とする老夫婦を笑う者など、一人もいなかった。
色の変化の順番が異なれば、当然、晩夏に現れる最終色が、毎年違うことになる。
燃えるような赤色に染まる年があった。ある年は黄色に染まった。緑のままだった時もあった。

写真は「宮本卓オフィシャルウエブサイト」より掲載。http://blog.golfdigest.co.jp/user/miyamoto/ 

 


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