第四章 時を積もる 12 (8月14日の投稿から連載している小説です)

翌日は、からりと晴れた。嘉芽市は、目映いばかりに陽光を撥ね散らす雪原を前に、測地の再開を宣言した。
まず、杭探しから始めねばならない。野帳と地図を交互に見ながら、忍の磁石と歩測を用い、杭の位置に見当を付ける。
苛立ちを、ごっそり丸ごと腹の奥に仕舞い込み、どっしりと構えてみせた。
「さ、どの杭が早く見つかるのう? 競争じゃ」などと、人夫どもを面白おかしく嗾(けしか)けた。
子供の宝探しを思わせる仕掛に、強ばっていた人夫どもの顔が和らぐ。
ここにあったでー」一尺半ほど積もった雪の中から、人夫がにょこっと立ち上がり、大きな声で叫ぶ。鼻先に雪を引っ付けた顔に、笑い声が起こった。
杭が全て見つかると、測地に移る。
位盤の整置に掛かった人夫どもの動きに目を瞠った。当初のような戸惑いが見えない。一度でも手順を経験した事実は、決して無駄でなかったようだ。
測地作業全体に円滑な流れが生まれた。
「未の三歩、加えて五十分」
てきぱきと測地が進んでいく。読定した測値を読み上げる声にも、力が籠もった。

最後の杭――北側坑口前の杭の測地までを終えた。が、嘉芽市は、まだ作業を終わりとはしなかった。
「そこと……そこじゃ」嘉芽市は、坑口の周囲にある茅の群落の中や、石の陰などを三箇所指さし、杭を打たせた。
杭打ちが終わると、北側坑口前の杭と、三本の杭の位置関係を、間竿と方位盤で調べる。
間竿は、長さ九尺のうちの端三尺が半分の厚さに削られていた。他の間竿を、切り欠け部分に次々と重ねて行けば、真っ直ぐな測線が維持できるように工夫されているのである。
南側坑口前の杭でも、同じ作業を命じた。
凍り付きそうな寒気が、嘉芽市の顔に吹き付けた。ほっぺたと耳に、ひりひりと痛みを感じる。
気が付けば、あっと言う間に、夕刻を迎えていた。測地の終了を宣言し、人夫どもを労う。


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