第八章 亀、走れ! 4 (8月14日の投稿から連載している小説です)

蝋燭の光を浴び、白刃が煌めいた。
「直ちに作事を止め、ここから立ち退けい」
首領の男が凄む。ついに〝強硬派〟が、自ら、はっきりと姿を晒した。
嘉芽市は怯まなかった。師の仇を鋭く睨み付け、普請の指揮者としての気概を示す。
「身共らを立ち退かせて、どうなさるおつもりか」
「言うまでもない。隧道は通させぬ。支えを崩し、埋めるのだ」
黒覆面から覗く目が、丸太で組んだ木枠に向けられた。
武三郎がすうっと前に進み出る。
「普請の邪魔はさせぬ」
短く低い声を響かせた。太刀の柄に手を遣り、臨戦の構えを見せている。
首領は、武三郎に視線を移すと、黒布の下にある口を、もごもごと動かした。
「其処もとは、井汲武三郎とか名乗っておるらしいな。だが、本名は違う――目瀬数馬だ。公儀の徒目付にして、おそらくは、隠密を役とする者」
嘉芽市は動転のあまり、吸い込んだ息を思わず止めた。
だが、武三郎が幕府の隠密とすれば、時折、姿を消した理由が説明できる――江戸に戻って、幕府に状況報告し、新たな指示を受けていた――と。
「それにしても中は蒸すのう。数馬殿ばかりを晒し者にしてはいかん。拙者も、鬱陶しい布は外すこととしよう」
首領は、首を軽く捻りながら、滑らかな動作で黒覆面を取り去った。残りの者どもも倣う。
嘉芽市は、覆面の中から顕れた顔を見て、今度は、雷に打たれたような衝撃を覚えた。
「左京様! ま、まさか、そんなはずは?」
人違いではないか――と、何度も見直す。だが、目の前の人物は、左京に他ならなかった。


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