第五章 普請始まる 9 (8月14日の投稿から連載している小説です)

翌朝になると、普請現場の雰囲気が激変した。
隧道入りを、うじうじと渋る石工が、一人、また一人と、出始めたのである。
昨日までは、掘削の捗りを楽しみに喜々と入って行った。全く以て想像できない変貌ぶりだった。
実働できる石工の数が減れば、半刻ごとの三交代体制が維持できなくなる。
結果として、一部の石工に労働が集中した。疲労と不満から、石工の腕の振りは、当然の如く鈍る。
役夫も同様だ。怯えた顔付きで飯場の近くに固まり、警備の藩士に促されて、ようやく動く始末である。
原因は明らかだった。人夫どもが、これまで胸に秘めてきた不安や怖れが、弥十郎の言葉をきっかけに、一気に表面へと噴き出したのだ。
せっかく、順調に進み掛けた普請が再び滞った。日を重ねる毎に、遅れは増幅し、大きな重荷となって嘉芽市にのし掛かる。
それにしても、何故、弥十郎は、嘉芽市の邪魔をするのか?
「だいぶ、参っておるようでござるな」
武三郎が、額に玉の汗を浮かべながら、声を掛けて来た。
「人夫どもの不安を鎮めるため、一度、水神様の慰霊をしたらどうかと、思うのですが」
嘉芽市は、唯一の考え得る策を口にしてみた。
「逆効果でござるぞ。慰霊祭を行えば、祟りを事実だと認める結果になり申す」


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