第五章 普請始まる 5 (8月14日の投稿から連載している小説です)

陣屋の役人の中に、清助の姿があった。ぎょろ目で嘉芽市を捉えるや、甲高い怒声を浴びせた。
「どうするつもりだ? ますます普請が遅れるではないか! 盗人に目星はついておるのか?」
清助も、作業の遅れに気を揉んでいる。普請を受けた近長陣屋の代官としての責任があるからだ。ために、嘉芽市に対する清助の言動は、最近、特に厳しくなっていた。
「御代官様、どうかこちらへ」
嘉芽市は、人夫どもの群れから離れた場所に清助を導く。
清助は、戸惑いを見せながらも、案内する方向へ移動した。
「身共は、小鍛冶が怪しいと睨んでおりまする。石工や役夫は、皆、堀坂の者でございます故、顔も家も知れておりまする。ですが、小鍛冶どもは、外から掻き集めた者ばかり。素性が知れませぬ」
清助は、鼻の穴をかっと拡げ、意気込んだ。
「ならば、儂が、これから小鍛冶を一人一人、容赦なく吊し上げて、悪事を吐かせてくれる!」
嘉芽市は、清助の声が大きくなったので、慌てて両掌で制した。
「それでは鑿造りが止まり、ますます普請が遅れまする」
「ならば、どうするというのだ?」
「身共は、難事がこれで終わりとは思っておりませぬ。目を光らせておけば、不届き者の尻尾は必ずや掴めるもの――と」
清助は円い顎に手を当ると、ゆっくりと頷く。
「盗られた鑿は諦めて――か。だが、それほど悠長な考えで間に合うのか?」
「大丈夫でございます」
自信も策もなかったが、他に答えようがなかった。
清助から、具体的な手立てを問われて難渋する前に、さっさと清助から離れる理由を拵える。
「とりあえず、身共が、小鍛冶どもの様子をば見て参りまする」
嘉芽市は、鍛冶場の前に屯している者どもを、押し退けて進んだ。建て付けの悪い戸を、両手で揺り動かし、こじ開ける。好奇心を孕んだ視線が、背に注がれるのを感じた。


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