第五章 普請始まる 14 (8月14日の投稿から連載している小説です)

嘉芽市は、月光に照らされた道の前方に目を遣った。
五つの人影が立ちはだかっている。明らかな害意を感じた。
「気を付けぇよ」
下男にそっと告げ、身構える。
五人は、四間ほど離れた位置から、じりじりと距離を詰め始めた。
「名乗れっ! 何者じゃ? 何の用がある?」
嘉芽市の問いに、侍らしき者どもは、白刃を抜く行為で応えた。
風がぴたりと止まっていた。虫の声だけが響いている。
下男の肘を掴み、側に引っ張り寄せ、耳打ちした。
「今すぐ戻り、武三郎様にお報せするのじゃ」
ところが下男は動こうとしない。恐怖で身体が動かないのかもしれなかった。
狼藉者どもが、息遣いが聞こえるほど間近に迫って来ていた。
「早う、言うとおりにせぬかっ!」
嘉芽市は、絞った声で叱り上げた。下男は、飛び上がって反転し、来た道を駆け戻る。
すると、読み通り、五人の動きに乱れが出た。全員が下男の動きに反応して、追手になろうとしたのだ。
戸惑う僅かな隙を、嘉芽市は狙っていた。北側に広がる茅原に一目散に飛び込む。逃げ込む直前に、二人の侍が下男の後を追ったのを見た。
腰を曲げ、茅の間を掻き分けて、山裾の方向に突き進む。硬く鋭い葉先で、顔や手が何カ所も傷付き、ひりひりと染みた。
半町ほど進んだところで、茅の根元に低く蹲り、様子を窺う。
「草の中に逃げ込んだぞおうっ! 捜せいっ! 見付けたら、その場で斬れっ!」
指示の声が飛んだ。ごそごそと茅を捌く音が聞こえる。
三人の侍のうちの一人の草を踏み締める音が、徐々に近付いて来る。早くも、荒い吐息まで聞こえて来た。
微かな身動ぎすら許されない気がした。心ノ臓が、どくどくと激しい動悸を繰り返している。
すうっと、追手の足と呼吸が止まった。
見付かったか? 嘉芽市の背筋に痺れが走った。
不安は的中した。離れていた二人も、向きを変えて接近して来たからだ。
すなわち、三人が互いに合図を送り合い、嘉芽市を挟み込もうとしている。
目一杯に低い姿勢を採り、包囲網から遠ざかろうとする。手も使い、獣の如き動きで、茅の根元に沿って移動した。
だが、二十間ほど進んだところで、冷や水を浴びせられた気持ちになった。敵は、逃げる嘉芽市に、じわじわ迫るだけで、早い動きを見せていない。つまり、じっくり追い立て、茅原が疎らな山裾近くに誘導していたのである。
とは言え、動きを止めれば、距離を詰められる。
行き詰まった嘉芽市は、茅の間から目を凝らした。すると、月に照らされた三人の影が浮かんでいる。


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