第五章 普請始まる 11 (8月14日の投稿から連載している小説です)

鳴きじゃくっていた蝉どもが、暑さに閉口したのか、小休している。
「まずは、相手の出方を考えにゃあならん」
嘉芽市は、火照った頬を掌で冷やしつつ、これまでの〝強硬派〟の手口の分析を試みた。
「着目すべき点は二つ。一つ目は隧道普請の要所を衝いてくる点じゃ。二つ目は、最初は杭、次に鑿泥棒、さらには火付け――と、遣り方がだんだんと熾烈となってきておる点。さすれば……」
背骨の芯を冷感が突き抜け、噴き出していた汗が、一気に退いていく。
「次なる標的は、人夫じゃ――違いない! それも、石工か小鍛冶じゃ」
ごくりと唾を飲み込む。ひりつく喉を、粘っこい塊が下りて行った。
「如何に警備を強化すると申しても、御役人の数にも限りがある。動き回る人夫ども全員を守る芸当はできぬ。まさに敵の狙い所ではないか!」
石工や小鍛冶が消えたり、作業のできない身体となれば、重大な支障が生ずる。
が、事態は普請の遅延だけでは収まらない。「神隠し」だの、「祟られての怪我」だのと噂が流れれば、怖れた人夫どもは、我先にと普請現場から逃げ出すだろう。
「如何にすれば、石工や小鍛冶の身を守り通せるのじゃ?」
嘉芽市は、腰を下ろし、手近にあった木切れを拾った。
「何かないか? 何か手を思い付かぬか?」
ぶつぶつと呟きながら、手の動くまま、地面に線を引き、図や数字を描く。
たまたま、二つの円の一部を重ねた図形を描いた時だった。ふっと手の動きを止めた。
「そうじゃ。交罅(こうか)じゃ!」
木切れを持った手を、己の腰に打ち付けて叫ぶ。
「石工と小鍛冶は、いつも決まった二人一組で動くよう、取り決めをするのじゃ。石工どもだけではない。役夫も同じくするのじゃ」
複数で行動すれば、〝強硬派〟が狙い難くくなる。加えて、人夫の中に裏切り者が紛れ込んでいても、二人一組とすれば、人夫同士がいつも互いに監視し合う結果、犯行が予防できる。
交罅とは、和算用語で、二つの図形が交わってできる部分を指す。
嘉芽市は、思い付いた方策を「交罅の計」と名付けた。


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