第三章 南蛮流町見之術 3

裾野を上るに連れ、草木の繁茂の度合いが濃くなっていった。大きな藪に行く手を遮られ、迂回を余儀なくされる場合も何回かあり、進みは遅々として覚束ない。
だが、嘉芽市は、どきどきと興奮し、気持ちを高ぶらせていた。
踏み締めたときの足応え、露頭する岩の質が、前日に踏査した場所とは段違いの、しっかりした硬さを示していた。
「見よ! 思ったとおりじゃ。硬いぞ。しゃんとしておるぞ」
嬉しくなって下男に語り掛ける。
「丑五分、十三歩――右・松の大樹」
測定結果を読み上げる声も、自然、大きくなった。
裾野の頂点を通過し、北に向けて下り始める。植生が一変し、草木は疎らとなった。岩肌が顔を覗かせている部分が増えてくる。
裾野を北に下りきった位置で、休憩を摂った。測定を始めてから、早くも二刻半(五時間)を経過していた。地図作製のための測量と並行して、地質の調査もしているので、なかなか先に進めない。
下男がやれやれと言った顔で、地べたにへなへなと、へたり込んだ。慣れない作業をしながら、坂を上下したため、嘉芽市よりも疲れている様子だ。
ここまでの踏査結果は、予想した状況に、ほぼ一致していた。嘉芽市は岩の上に腰掛け、握り飯を頬張りながら、頬や額を打つ風の動きを心地よく受ける。
足下から、一株の藤袴(ふじばかま)がぴんと立ち上がり、白藤色(しらふじいろ)に染まった小さな花の集まりを、誇らしげに揺らしていた。
休息を終えた嘉芽市らは、西に向きを変えた。北側の斜面を左手に見る格好になる。右手には、朽葉色(くちばいろ)の土を露出した田圃が、入り組んだ畦を見せながら広がっていた。
やがて嘉芽市は、加茂川に突き当たった。
嘉芽市は、一瞬の躊躇いを振り切り、河原まで下りた。目を四方に配り、河原周辺の岩質、地形を詳細に調べ、下男に記録させる。
「よしっ」嘉芽市は、確信を得て、大きく頷いた。
今まで、意識的に目を背けてきた加茂川を直視する。
加茂川は、暴虐の限りを尽くした時とは打って変わって、整然とした流れを見せていた。
河原に沿って南に下り、裾野を回り込むように東に進むと、出発点となった岩まで戻った。裾野の西端を、左回りにぐるりと回った格好だ。
既に、陽は、西の山脈の稜線に差し掛かろうとしていた。まる一日てくてく歩き回れば、身体はどっぷりと疲労しているはずだ。ところが、嘉芽市は、沸き立つ心が勝り、疲れは少しも感じなかった。
隣で、ぐったりした表情の下男が、今朝と同様の大きな欠伸をした。


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