第七章 槌を振れ 2 (8月14日の投稿から連載している小説です)

周介は、さらに意外な事実を伝えた。
「家を失い、仇をも見失ったサキが、何を心の拠り所としたのか、分かるか? それはのう、腹に宿った、お前の子じゃ」
「身共の子ですと?」
嘉芽市は、驚きの余り、飛び上がりそうになる。
堰に向かおうとした嘉芽市を、サキが呼び止めた時の情景が、頭中に浮かんでいた。
サキは慶事を伝えたくて堪らなかったのに、急ぐ嘉芽市を気遣い、口を噤んだのだ。不憫だった。
「それから、サキはどうしたのでごさいますか」
「サキは、子を産むために、津山領の縁者を頼った」
「そ、それで?」
周介は、嘉芽市の尻こそばゆい心持ちを、読み取ったようだ。
「安心せよ。去年の十月に、やや子を無事に産んだ。亀によう似た男児と申しておったぞ」
嘉芽市は、怒りも悔いも驚きも、寸時の間も忘れ、甘酸っぱい感情で胸を埋めた。
周介も、苦しい息の中で、微かに頬を緩めている。まるで、孫のできた歓喜を噛み殺している祖父の顔付きのように見えた。


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