東山魁夷の絵に浸る。版画展。瀬戸内市立美術館。レトロな港町牛窓で展示。

生まれて初めて購入した画集が、東山魁夷の作品集だった。あれは確か大学3年生の冬休み。初めてできた彼女が地元に帰ってしまい、甘酸っぱい寂しさで心が満ちていた時だった。
魁夷の描く冬山の風景が、妙に心に馴染んだ。確か「君を想いながら、魁夷の絵を見ています」などと、思い出すのも恥ずかしい台詞を手紙に書いたっけ。

じっくり眺めるのは何十年ぶりだろう。
藍と濃緑と白。雪と森と湖。お馴染みの取り合わせ。昔のような感情の高揚はなかったが、その分、冷静に見ることができた。
一部分に視野を収束すると、描写は模様と化し意味を成さなくなる。一方、遠離るほどに、原景以上にリアルな風景に見える。そんな感じの絵だった。
本物の光景よりも、水面に映った影のほうが情緒に溢れ、美しい――真実のような虚構のような。
筆遣いは、徹底して隈取(ぼかし)の技法を駆使していた。森も岩も海も……。
ま、少しは、年を食ったなりの新発見もあったってこと。

『山嶺湧雲』
株式会社シバヤマホームページhttp://www.shibayama-co-ltd.co.jp/higashiyama.htmより。

最後に驚いた。全ての絵は版画(リトグラフ)なのだった。なるほど「版画展」と、ちゃんと書いてあった。魁夷もさることながら、原画と寸分違わぬ絵を版画で作り上げる職人さんが凄い!
驚嘆と感動を胸に、瀬戸内市立美術館をあとにした。


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