第五章 普請始まる 10 (8月14日の投稿から連載している小説です)

「では、どうすれば……?」
嘉芽市は、万策尽きた気持ちとなり、がくっと首を項垂れた。
ところが武三郎は、あっさりと別の解決策を提示した。
「人夫の手当を、上げることでござる」
「たった、それだけで?」
嘉芽市は、瞠目して顔を上げる。
「此度の普請の日当は、石工百二十文に、役夫百文でござる。日頃から貧に窮している堀坂の者どもにとっては、まさに降って湧いた宝の山。そう簡単には手放すはずはござらぬ」
武三郎は、具体的な方法についても述べ始めた。
「まずは、祟りの話なんぞ何処吹く風と振る舞うが肝心。なおかつ、普請が捗った褒美を理由に、日当を上げるのでござる。あとは時が為す仕事に任せる。つまり、人夫どもの頭から小波(さざなみ)が消える時を待てばよいのでござる。人心とは、誠に以て移ろぎ易きもの」
「忝のうございます」
嘉芽市は、赤黒く日焼けした武三郎の大きな顔に、思わず拝礼した。
だが、武三郎の唱えた方策で難を乗り切るためには、今後の異変を断固として阻止せねばならない――という、厳しい条件がある。
「もちろん、さらなる監視の強化も、御代官様にお願い致さねばならぬが……」
武三郎も、そこは懸念しているようだ。
嘉芽市は、危惧の念を抱かずにはいられない。
これまで〝強硬派〟は、力に頼らず、むしろ知謀を用い、予想の付かぬ策を弄してきた。今後も傾向は変わらないだろう。
と、すれば、藩士による警備をより堅固にする程度の常套手段で、異変を防ぎきれるかは、極めて疑問だった。
嘉芽市は、〝強硬派〟への独自の対抗策を組み立てるべく、考えを巡らせた。


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