第七章 槌を振れ 11 (8月14日の投稿から連載している小説です)

鍛冶場の仕事に一段落を付けた嘉芽市は、早速、堀坂に出向いた。
百姓屋の戸口に立って、事故についての己の非を詫び、頭を下げて陳謝する。さらに、普請現場への復帰を強く訴えた。これまでの鼻っ柱の強い嘉芽市では、とても考えられない行為だ。
だが、今は、なんの拘りもなく実行できた。
「嘉芽市様、どうか、頭をお上げ下さいませ」
庄屋の跡継ぎ息子が、わざわざ訪ねて来た挙げ句、ぺこぺこと頭を下げて、詫び、誘うのである。さすがに、どの家の者も恐縮した。
石工だった者を中心に、毎夜毎夜、欠かさず参上しては掻き口説く。二回三回と訪ねるうちに、村人の反応も変わって行った。
当初は、慇懃な応対をするだけだったが、熱心に説得を試みる嘉芽市に絆されて行った。
不安と不審で凍り付いていた心が溶け始め、砕けた表情を垣間見せるようになる。石工で働いていた当時の想い出を、楽しげに語るようにもなっていた。
とはいえ、依然、誰一人として普請現場には戻らない。
嘉芽市は、己の熱意がまだ不足している――と、考え、さらに訪問の回を重ねた。
足を運ぶ回数五度目に至り、ようやく村人の一人から、普請に戻りたくても戻れない事情を聞き出せた。
「弥十郎が、やって来ては、祟りの話をおどろおどろしく繰り返すのでございます。それだけではございませぬ。分不相応にも、二本を差し、見慣れぬ侍どもに守られながら、『普請に出れば、無事では済まぬと思えい。家族も例外でないぞ』などと、脅して回るのでございまする。嫁や子供まで狙われるのでは、とても……」
嘉芽市は、湧き起こる憎悪に、奥歯を鳴らした。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です